私はいつも、すべてが終わったあとに事を知る。
両親の死もそうだった。千一が足抜けを敢行するほど追い詰められていたことも、叔父が銃弾に倒れ病院へ搬送されたことも。
そして──。
静まり返った病院の廊下を、何も考えられない頭で進む。その部屋の戸口に立った私を、叔父がゆっくりと振り向く。

叔父は部屋にいた二人の刑事に、姪です、と私を指した。刑事は黙って私に一礼すると、順に部屋を出て行く。彼らが通り過ぎた向こうに横たわる、真っ白な掛け布。
彼の名も、現実への問いも、拒絶も、言葉にすれば形を持ってしまいそうで、できない。喉に蟠った空気を持て余し、心臓が大きくうねる。寝台に近づく。その顔を覆うものも白。この覆いを外すまでは、悪い夢を見ている、誰かの心無い嘘だと、ずっと思っていたかった、けれど。
その人は、とてもきれいな顔で眠っていた。
もう二度と、目を覚まさない。
膝が身体を支えることに耐え切れなくなり、私は縋るようにくず折れた。息が詰まり、声もないまま、涙ばかりが止め処なく流れる。落ちるしずくが彼の頬を濡らしてしまう。ごめんなさい、もう泣かないと決めたのに。私は大丈夫と、あなたと約束したのに。
誰か。
誰か誰か誰か、嘘だと言って。
いつだって真っ先に私の心を拭ってくれた、低く優しい、千一の声で。
けれどもそれは、それこそが、嘘。
千一のいない世界は、ただどこまでも、白くかなしい。