お見合いするの。 そう、は言った。 受話器越しに、呟くようにぽつりと、その言葉はカンシュコフの耳に落とされた。破壊力は抜群なんてものじゃない、瞬間、カンシュコフの身体機能は全停止したかに見えた。受話器を取り落とさなかったのは、奇跡としか言いようが無い。 ようやく、へえ、そう、とだけ返したが、動揺を取り繕えていたかは、定かでは無かった。その後どうやって電話を切ったかも、最早覚えていないくらいだ。それからしばらくは、宿直室のソファに腰を下ろしたまま、呆然としていた。 今日も囚人たちを片端からいびり倒し、例によってかの死刑囚相手に返り討ちを食らい、むしゃくしゃした気分で夜回りを終えた。宿直室に戻ってくるなり電話機に手を伸ばしたカンシュコフは、半ば無意識の内に、大好きな従姉へのダイヤルを回していた。 楽しい時間のはずだった。少し驚いた様子で、どうしたの、と問うたに、姉さんの声が聞きたくなって、と甘えた声を出すと、彼女も嬉しそうに笑ってくれた。他愛無い話をたくさんして、でもそれだけで、柔らかくて落ち着いた気持ちになれる。昔からそうだった、といると、心穏やかに笑っていられる。このふわふわした感覚が、カンシュコフはとても好きだった。なのに。 他の男の物になるのか、あの姉が。 まだ自身の想いさえ、伝えていないと言うのに。 姉さん。 姉さん。 「────……姉さん」 気味の悪い感情がどろりと心臓の辺りで渦巻いて、顔を覆っていた両手を離す。 何だ、この感覚は。 嫌だ、嫌だ、嫌だ。 ああ、そうだ。 あいつを苛めれば、少しはすっきりするかもしれない。 「……なあ」 ゆらりと立ち上がったカンシュコフは、テーブルでウォッカを飲んでいた同僚たちに声をかけた。 そして、口の端に笑みを上せながら、例の死刑囚を襲う計画を持ち掛けたのだった。 でも結局再度返り討ちwwwww |