終業のベルとともに、そそくさと帰り支度を始める相棒を横目に見て、コプチェフは、よくやるよな、と呟いた。
「そんなに急いで、奥さんのとこへ帰りたいもんかね」
「当然だ、かわいいがおいしい夕飯作って俺の帰りを待ってる……考えただけでにやけちまう」
「へぇへぇ。さっさと帰んな」
もう何万回と聞かされた惚気に、うんざりした顔を隠そうともせず、ひらひらと右手を振って、ボリスを見送る。
「おまえな、下らないと思ってるだろ、の飯は本当に美味いぞ」
「だから、そんなに言うなら一度、飯にでも呼んでくれって、いつも言ってんだろ」
事実、コプチェフは、ボリスの結婚前からずっと、に会ってみたいと言い続けている。が、未だ叶ってはいない。
「ダメだ。がかわいいのも、これまた本当に本当なんだ。おまえみたいな女たらしには、会わせられん」
コプチェフの女癖の悪さを、ボリスは、コンビを組んだ当初からずっと、諌め続けている。本人に直す気は皆無だが。
「おまえが改心して、真っ当な兎らしい恋愛や結婚ができるようになったら、会わせてやるよ」
「バカ言え。いいか、よく聞け。おまえはって言うけどな、女の子ってのはみんな、かわいいもんなんだよ。みんなかわいいから、みんな好きだ。それのどこが悪い。結婚だって? ハッ、一人に決めちまうなんて、世界中の女の子に失礼だぜ」
「おまえのその思想が失礼だってことに、早く気付け、バカ」
おなじみになりつつあるやりとりのうちに、ボリスは早々に支度を済ませ、トンと鞄を机に載せる。
「さあて、今日の夕飯は何かな。ボルシチがいいなあ」
「おまえなんか豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ。ああ、今日の夕飯はきっと豆腐だな、豆腐一丁」
「何だ、トウフって」
「豆腐も知らねえのか、日本の伝統的な食い物だよバーカ」
「バカが兎にバカって言うな、バカ」
「どっちがバカなんだよバーカ」
「うるせーな! おまえら二匹とも充分バカだよバカ共!」
怒鳴り合いの不毛な喧嘩に、周囲のツッコミが見事に決まった。
ミリツィアのアフターファイブは、こうして過ぎていくのだった。