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貴方に を 私に
プーチン / キレネンコ / ボリス / コプチェフ / カンシュコフ / ゼニロフ

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目が覚めたら、泣いていた。
夢を見ていた。それがいけなかった。プーチンがいたのだ、私の、目の前に。けれど手を伸ばしても届かない。耳を澄ましても、声も聞こえない。
彼はただ、笑うばかりで。
私になんて、まるで気づいてすらいないみたいにただ、笑うばかりで。
憎たらしいほどあどけなくて狂いそうなほどいとおしいその笑顔が、こんなにも私の胸を焦がしているんだなんて、いまさら思っても、どうすることもできない。
会いたい。
声が聞きたい。
その手に触れたい。

ねえ。

あなたの唇は今、誰の名前をなぞっているの。



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屋敷を満たしているのは一面の闇と、血と硝煙の匂い。耳鳴りのような大気のうねる音。
身動ぎさえ、できなかった。
「──……」
咽喉に手をやる。締め付けられているわけではない、でも、声が出せない。叫びたい言葉はたった一つなのに。
キレネンコ!
彼は何処にいるのだろう、この、死の立ち込める空間の、いったい何処に?
名前を呼べば、応えてくれるだろうか。
でも、もし、返事がなかったら。
素早い恐怖が、蛇のように私の背筋を這い登る。

いやだ。

キレネンコ。

私の名前も呼べないあなたなんて。



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世界のすべてが、薄墨色に沈んでいた。
寝息をたてる彼の顔があまりにきれいで、目覚めてしばらくは、ぼうっと見惚れていた。そのうちになんだか不安になってきて、そっと手を伸ばして口元にかざすと、あたたかい呼吸に触れて、ほっとする。
ゆるく引き結ばれたボリスのうすい唇が、私は大好きだった。
私の名前を呼んでくれるときは、もっと。
ねえ、ボリス。
あなたのためになら、私は、どんなふうにだって生きていけるよ。

だから。

「──……

私の名前を、呼び続けていて。
たとえ世界が終わってしまっても。
抱き寄せられた胸に頬を擦りつけて私は、強く強く、そう願った。



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どんなに恋い焦がれて胸を掻き毟るほど切望しても、決して叶うことはない。
コプチェフに巣食ったのは、そういう想いだった。
式典の壇上に在って、彼女は輝くダイヤモンドの一欠けらだった。長口上を述べる老体に笑顔で拍手を送り、隣に座る夫とときおり楽しげに談笑し、ちらりと会場へ視線をやって、コプチェフに気づくとにこりと口角を上げ、小さく手を振った。
コプチェフには、その手に触れることさえ許されない。
ならせめて、名前を呼んでほしかった。
あなたの声がなぞったというだけで、自分の名前が、この世の何にも代え難い宝物になるのだから。
しかしそれも、儚い望みでしかない。

あの人との距離は、月より遠い。

届かないと分かっていながら、それでも跳ねるのは、彼が恋する兎だからである。



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誰かのものになってしまうくらいなら、いっそ嫌いになってしまいたかった。
僕以外の男に愛を囁くあの人を、それでも愛しているなんて、自分が滑稽でしかたない。
姉さん姉さん姉さん姉さん姉さん。
ああ、どうしよう。
僕以外の男に微笑みかけていても。
僕以外の男と指を絡めていても。
僕以外の男の名前を呼んでいても。

「カンシュコフ」

どうしたって僕は、あなたのことが好きなんだ。

あなたに名前を呼ばれたというだけで、僕の心はチョコレートよりも甘く、蕩けていく。



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私のなかのありとあらゆる成分が、あなたを愛して止まないのです。
その証拠に、ほら。

名前を呼ばれただけで、こんなに体が熱くなる。
私のすべてが、あなたの声に、視線に、触れた手の温度に、いちいち反応してしまうのです。
「……どうしたのかね」
「すみません、でも」
「仕方の無い子だね、おいで」
撫でられる手のあたたかさと少し低い声の心地良さに、私はどれほど甘えているか。
あなたに呼ばれるためだけに、私の名前はあるのです。
あなたに愛されるためだけに、私はここにいるのです。

そう、それは。

涙を流すほど溢れ出す、あなたへの愛。