石ころを蹴り上げた。
期待したよりも全然飛ばなくて、舌打ち。こういう日は、何をやってもダメだ。
十代目は今日も放課後補習なのだそうで。
くっついていやがるのは山本のヤローで。
俺も残ろうとしたけど、リボーンさんに「その必要はねえぞ」と言われてしまえば、おとなしく帰るしかない(でもちょっと反論したけど)。
教室を出た後、背中で聞いたのは、十代目が山本にかけた声。
「山本が一緒なら心強いよー」
刺さる。
不甲斐無い自分を見透かされたようで。
痛いわけじゃない、と言い聞かせる。けど。
だけど。
「……あれ」
不貞腐れた気分のままぶらついていた商店街で、見知った後姿を見つけた。人の波を縫って、小走りに追いつく。
さん、持ちますよ」
「え……あら、獄寺くん」
両手にぶら下げた買い物袋を掬い取りながら声をかけると、少し驚いたような顔で振り返ったさんが、笑顔で俺の名を呼んだ。
「ありがとう、助かるわ」
「いえいえ、こんくらいいつでも。お、今日の夕飯カレーっすか」
「ええ」
空がだんだんと青に橙を滲ませる時間帯、商店街は、夕飯の買い物に訪れた人々で混み合いはじめていた。
「今日は、綱吉くんや山本くんと一緒じゃないのね。さてはまた、二人とも補習かな」
「え……はあ、まあ、そんなところで」
何と答えれば良いかわからなくて、語尾を濁す。さんも苦笑して、しょうがないわね、と言った。
「獄寺くんがいるのにねえ」
「いえそんな、全然……俺なんて」
「あら、謙遜? 獄寺くんのおかげでちょっとずつ成績伸びてる気がする、って、綱吉くん喜んでたわよ」
「え……十代目が?」
ぱ、と顔を上げた俺に、さんはにこっと笑って、ええ、と頷いた。
「……でも、十代目はいつも、山本と一緒なら安心だ、って」
「あらあら……あんまりそういうの気にしちゃダメよ」
すぐに肩を落とした俺の背中を、励ますようにぽんぽんと叩いて、さんは続ける。
「それが山本くんなりの支え方だって、綱吉くんも気づいてるんじゃないかな。だから、獄寺くんも獄寺くんなりの支え方で傍にいれば、綱吉くんはきっとこたえてくれるよ」
綱吉くんがそういう人だから、獄寺くんは支えたいって思うんでしょう?
さんの言葉はとてもあたたかくて、俺は、目頭に熱いものがこみ上げてくるのを、我慢するのに必死だった。
「ありがとうございますっさんっ! 俺、これからも全力で十代目を支えていきますっ!」
「うん、その意気その意気」
さんは、いつだって俺に力をくれる。
今なら、蹴り上げた石ころは空へだって届く気がした。