は厄介な女だった。
俺の行く先々に現れてはベタベタと付きまとう。ペラペラどうでもいいことばかり喋って煩い。水商売という職業柄、それなりに手堅く重宝する情報網を持ってはいるが、紹介元が吾代であり、奴と仲が良いのも面倒だ。
そして、何故か兄貴に気に入られている。
「カワイイしよく気も利くし、一度付き合ってみりゃあいい」
兄貴はよく、冗談とも本気ともつかない顔で、そんなことを平気で言う。
「俺はいらねーよ、彼女とか、そんなん。女なんて興味ねーもん」
あいつのことでこんなふうに不貞腐れている自分も大人気ないと思うから、余計、苛立つ。
厄介な女だ、本当に。
はご丁寧にも、そういった俺の内面的な問題を、俺の顔色一つですべて読み取ってしまう。
「ユキさん、あたしのこと苦手なんでしょ」
満面の笑顔で腕に絡みつきながら、さも愉快そうに訊いてくる。
「ウルセーな、ひっつくんじゃねーよ」
払い除けると離れるが、そんな反応さえ、楽しんでいるようだ。
「あはは、ほんとに似てる」
「はあ? 何が」
「ユキさんとシノブちゃん」
「な、っ」
そういえば情報屋の劉が、今でこそと吾代は仲が良いが、昔の吾代はそれこそ子供が大嫌いなピーマンでも見るように、を煙たがっていた、と言っていた。
「昔のシノブちゃんはねえ、社長さんがあたしとのことでからかってくるのが、恥ずかしくってしょうがなかったんだって」
かわいいよねえ、とは笑う。俺はといえば、笑うどころではない。
「俺を、吾代なんかと一緒にすんじゃねえよ」
本当は誰より、自分が一番、わかっていた。


今の俺は、まさにその頃の吾代だった。