「脳噛さんは」
彼女の声を聞くとき、竪琴のアルペジオを想起する。ゆるやかに駆け上がる音律が絹布を広げるように奏でられるのを、天を割るいかづちでもって引き裂いたら、どんな気分がするだろう。
「どうして私なんかのこと、傍に置くんですか」
「さあな、何故だと思う」
白く、柔らかな肌を滑る指先が、チリチリと痛む。それが実に快い。
「私なんて、何のお役にも立てませんよ」
「貴様がそう思うのは勝手だが、それが事実に呼応するかというのは、また別の問題だ」
謎を求めて地上までやって来た。この脳髄の空腹を満たすしか、この体が快楽を得る手段は無いのだと思っていた。そういう意味では確かに、己で捉えていた己自身について、単なる思い込みでしかなかった部分が多分にあったわけだ。
欲求に忠実に生きるならば、彼女の存在は必要不可欠のように思えた。

名を呼んで、微笑んでやる。
女という生き物は、それで喜ぶものなのだと、最近、学習した。