「手を伸ばせば届くところにいるような神様は、神様とは言えないよね」
人差し指に引っ掛けたお守りをくるくる振り回しながら、は言った。俺にはよく、意味がわからない。
「何だそりゃあ」
「だって、ありがたみがなさすぎる」
の答えはシンプルだった。確かにそうだ。だが。
「手を伸ばしても届かないところにいるような神様ってのも、どうなんだよ」
「どうして?」
「存在が遠すぎるだろ。祈ろうが叫ぼうが、人間の声なんざ聞こえもしねえんじゃねえか」
「ああ、そうか」
うんうんと頷いたは、右手に握ったお守りに視線を落とした。
「結局、こんなもの持ってたって、何の意味もないってことかな」
「第一、カミサマなんて見たこともねえ奴に守ってもらうなんてのも、考えてみりゃあ気味が悪いぜ」
「言えてる」
善二郎はすごいね、と言っては笑った。白くて細い腕がするすると俺の首を這って、真綿のように俺を締め付ける。
「……おい、何してる」
「あはは、似合うよ」
俺の頭を抱き込むようにして後頭部へ手を伸ばしたは、長い紐を俺の首に結わえ付けた。
「何……って、お守りじゃねえか」
「善二郎にあげる」
「こんなものに何の意味もねえって、今おまえ、言ったばっかじゃねえか」
「大丈夫だよー」
の顔が素早く寄って、触れたかどうかさえ怪しいほど短いキスを俺の唇に落とす。
の想いをいっっっぱい詰めといたから」
カミサマなんかよりよっぽど信じられるでしょ、そう言って朗らかに笑うと、はそのままことんと俺の胸に顔を埋めた。
「──おじじはいつまで、日本にいるのかな」
ぽつりと耳元に落とされたの言葉は、顔が見えないので感情が読み取れない。
「さあな。あのお方は気紛れだ」
ぽんぽんと頭を撫でてやると、そうだね、とくすぐったい吐息が答えた。

そうして俺は考える。
仕事前のひとときがこんなに穏やかであることの可笑しさを。



もうすぐ街は火の海に呑まれるというのに。