「」 「んー?」 「暑苦しくねぇか」 「全然。ちょーしあわせ」 そう言って、右腕に張り付いていた女はいっそう力を込めて、葛西に頬を摺り寄せてきた。あー煙草吸いてえ、と思ったが、利き腕がこれではそれもかなわない。葛西は溜め息を一つ落とした。 「だいたいおまえ、仕事はどーした」 「今日は誰とも会う約束してないもーん」 「ほんとか?」 「だって、メールも電話も来てないよー? 携帯の電源切ってあるけど」 「おいおい、いいのかよそんなんで」 悪戯っぽい笑みを浮かべるに、葛西は呆れ顔で言った。シックスもそれなりに、おまえさんの集めてくる金を当てにしてらっしゃるんだぞ、と忠告はしてみたが、おじじにはいっぱい援助してあげてるじゃん、と、逆に脹れ面で返される。 は詐欺のプロである。それも大会社の御曹司を相手取っての結婚詐欺を一度に五人も引っ掛けてくるような規模の仕事をそつなくこなしてくるものだから、その稼ぎは尋常ではなかった。 「だーいじょぶだよー、ぜんじろーは心配性だなーもー」 仔猫よろしく体を丸めながら、は葛西の膝の上へと移動した。せっかくぜんじろーのお仕事がないんだもん、今日はいーっぱい甘えるのー、と、砂糖の塊のような声を出す。 「最近ぜんっぜんえっちしてないし」 「あーはいはい、悪かったって」 右手を拗ねるの顎にかけ、左手で腰を引き寄せると、満面の笑顔で飛び付いてきた。 角度を変えながら何度も唇にしゃぶりつき、キャミソールを肌蹴させると、真っ白な肌にかぶりついた。きゃあん、と甲高い声をあげるに葛西のテンションも上がってくる。彼女のいい所を突付いて大きく仰け反らせると、そのまま覆い被さるようにして馬乗りになる。 それから互いの肌が溶けるほど強く体を擦り付け合い、葛西が漸く煙草にありつけたのは、三回ほど二人して絶頂を迎えた後のことだった。 「──きれーだねー」 とろんとした声で、が言った。立ち昇っていく煙を、人差し指がなぞるように追いかける。 「天の川みたい」 「安っぽい七夕もあったもんだな」 短く笑って、葛西はふうっと息を吐いた。ゆっくりとくゆっていた煙の筋が、一瞬で吹き飛ぶ。そういや、今日は七月七日だったなあ、と呟いた。 「おまえさんの彦星どもは、フェラーリだのベンツだのを磨いて、最高級のレストランも予約して、織姫を待ってんじゃないのかねえ」 「しょーがないよ、今日は雨だもん」 「そりゃー、ご愁傷サマだったな」 愉快そうに笑った織姫の白い肩を、唯一雨に降られなかった彦星が抱き寄せた。 |