いつまでこの人といられるのだろう。そんなことを考えながらは、複雑に絡み合った配線を弄る久宜の背中を、ぼんやりと眺めていた。
「よし、これで…………いいだろう」
どうやら作業はある程度の完成を見たらしく、久宜が顔をあげる。
「ありがとう。パソコンって私、よくわからなくて……助かるわ」
「いいさ、どうせ今日は午前中の外回りだけで、午後は暇だったんだ。それに」
構わない、というように手を振って笑いながら、久宜はの隣に腰を下ろす。
「君の方から呼び出してもらえるなんて、滅多にないしな」
「そうかしら」
「そうだよ」
が澄まして言うと、久宜はくつくつと咽喉を鳴らした。
「お茶、淹れるわね」
ソファから立ち上がろうとしたの腕を、ぱっと久宜が捉える。くい、と引っ張られ、不可抗力で引き戻されて、そのまますとんと久宜の腕の中へ収まってしまう。
「……なあに?」
「もっと別のモノが欲しいなあ」
口元に浮かべた笑みで囁くように言った久宜に、は呆れたように、小さく溜め息をついた。
「じゃ、どんなものが欲しいの? 言ってみて」
「うん、とりあえず」
すぐ目の前にあった久宜の唇が、食いつくようにのそれに覆い被さる。はん、と小さく呻いて、咄嗟に身を引こうとしたが、既に背に回されていた久宜の腕に阻まれて、それもかなわない。諦めて、大人しく彼を受け入れた。
いつまでこの人といられるのだろう。
そんなことを考えては、言い知れない悪寒のようなものを感じる。
二人は互いを傍に置く理由を、互いに承知し合っている。久宜はたった一人の肉親である弟を守るために、は、決して人に知られてはならない恋を隠すために。
では、その理由が消えてしまったら? の体は恐怖で強張る。携帯は一向にあの人からのメールを受信しない。もう一ヶ月も声を聞いていない。最後にあの人を見たのはいつだったろう。最後に、触れ合ったのは。
終わるのかもしれない、この恋は。
そうして私は、同時に二つのものを、失うのだろうか。
「……?」
ふと唇を離して、久宜が顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ええ……ごめんなさい、頭が、くらくらして」
「そうか。すまん」
そんなにがっついたつもりはないんだがなあ、と笑って、久宜は、を抱いていた腕の力を緩める。
「─────……や」
「ん?」
咄嗟に、離れかけた久宜の腕にしがみつく。
「どうした?」
そう問われて、しかし自分でも自分の行動の意味がわからなくて、は、えっと、と逡巡する。
やがて、小さく、ちゃんと抱いて、と呟いた。
久宜は一瞬、ぽかんとした顔でを見て、それから、お望みとあらば、と笑んで、ネクタイの結び目に指をかけた。