恋愛台詞的御題 ↑のタイトルクリックで、配布元様へ。 どこまでも久宜しかいません。 ※配布元様より許可をいただいて、一部変換を変えて使っているものがあります。 ・好きなんだよ莫迦 「─────……うん、じゃあ。体、こわさないでね。おやすみなさい」 呟くようなの声が止むのを、ドア越しにじっと、待っている。 俺の聞いたことの無いほどやさしい声。それが向けられた相手は、出張先にでもいるのだろうか。そんな電話、奥さんには聞かせられないだろう。 頃合を見計らって、ドアを開ける。 「すまん、長風呂しちまった」 「あ、……いいの。お風呂、気持ち良かった?」 「ああ」 何事もなかったように振舞うなんざ簡単なことだが、のた打ち回るこの胸のざわめきを、誰か如何にかして欲しい。 「……」 「なあに?」 好きなんだよ莫迦。お前が。 ・優しくなんてしないで 深く深く深く、混沌とした暗闇へ堕ち行こうとする私を、携帯電話が許さなかった。 「……どう、したの、こんな時間に。出張、でしょ」 『ああ、さっきこっち、着いたとこなんだ。寝てたらどうせ出ないだろうと思ったんだが……起きちまったか?』 「ううん」 『そうか。いやな、さっき飛行機の中で、夢を見てさ。どんな内容だったか、全然覚えてないんだが』 久宜の声は当たり前すぎるほど、いつもどおりの久宜の声だ。 『に、呼ばれたような気がしたんで、かけてみた』 そんな。 そんなことを、当たり前みたいに、言わないで。 こんな私に、優しくなんてしないでよ。 「…………莫迦」 『はは、そうだよな』 笑う声まで、いつもどおり。 本当に悔しい。 『じゃあ、また連絡する。おやすみ』 「うん、おやすみなさい」 ピ、と短い電子音がして、携帯は待受画面に戻る。 何てことだろう。 ほんの数分前まで、あの人に乱されて、泣き狂ってしまいたかった私がいたというのに。 今では、未だ耳に残る久宜の声を、大切に抱きしめて眠りたいと、思ってしまっている。 ・泣いてなんかない! 土曜の午後は、二人をソファに並べてゆっくりと過ぎていく。 『泣いてなんかない!』 テレビは甲高い女優の声でそんな科白を吐いて、背中合わせの恋人同士を映し出す。 あんなに真っ直ぐに、人を好きでいられたら良かった。 二人は今日も、微笑むだけの逢瀬を重ねる。 ・テメェなんざお断りだ 「こんにちは、ユキちゃん」 兄貴の留守中、訪問者を出迎えると、ニコ、と笑った、サン、が立っていたので、俺は少し不機嫌な顔になった。 「……何か用。兄貴なら、いないけど」 「知ってるわ。今日、取引先の人と会うって、言ってたもの」 はあ、と盛大に溜め息をつく。じゃ、何で来たんだよ、と問うと、当たり前のように、ユキちゃんに用があったのよ、と返される。 「はいコレ、ケーキ焼いたから、お裾分け」 「………………どーも」 白い紙袋を受け取って、一応、本当に一応、礼を言う。ちら、と中身を覗いて、箱が小さいような気がして、あれ、と首を傾げた。 「兄貴の分は?」 「久宜のは家にあるわ。お仕事終わったら寄ってね、って言ってあるから」 「…………」 気に食わない。 兄貴が会社を守るためにこの女と付き合ってるんだってわかってるけど、気に食わない。 ケーキとかクッキーとかしょっちゅう作っては、こうやってわざわざ、俺にまで届けるとこが見え透いてて、気に食わない。 ……食うけど。(美味いし。) 「いつも残さず食べてくれて、ありがとう」 急にそういうことを言うとこも、気に食わない。(頭ん中読まれてる気がする…) 「……別に、勿体無いし。そんだけ」 「あらあ、照れなくても良いのに」 くすくすっと笑って、小首を傾げて。 「こんな料理上手なお姉さんで良かったでしょ」 「姉、っ、誰がっ……テメェなんざお断りだ!」 イラッときて、捨て台詞みたいなモノを吐いて、バタン、とドアを閉めてしまった。 はっと冷静になって、慌てて覗き窓から外を見てみると、諦めの溜め息と一緒に苦笑して、さんがくるりと、背を向けたところだった。 またやってしまった、という後悔で、ちょっと沈む。向こうは大して気にしてないみたいだけど、ついカッとなってあの人に当たってしまうことは、少なくなかった。 は───、と、長い溜め息をつく。 兄貴のこと一番じゃないくせに傍にいるのが、気に食わない。 でもあの人が傍にいることで、兄貴がちょっとでも心から笑えてるみたいで、そこのとこは一応、本当に一応、感謝はしてるんだけど。(伝えたことないけど。) ・私が悪ぅございました 「何、また?」 「ええ、ごめんなさい」 仕事の帰りにの家に寄って、ケーキと紅茶をご馳走になりながら、午前中に幸宜を怒らせてしまった、という話を聞いた。 「ケーキのお裾分け、届けてあげたんだけど、ちょっと余計なこと言っちゃった」 「何て言ったんだ?」 「こんな料理上手なお姉さんで良かったでしょ、って」 「ああ……」 幸宜がもとよりをあまり快く思っていないことは、俺ももよく理解していた。していながら、たまにからかうこともあるのだが。 「また日をみて、謝りに行くわ」 「ああ、そうしてやってくれ。俺からも、何かフォローしとくから。……にしても、今日帰るの、ユウウツだなあ」 「ごめんってば」 「ユキのやつ、いつまでたっても子供みたいなことで拗ねるんだよ。があんまり年上ぶると、決まって、一つしか歳違わないのに、って、一時間はぶつぶつ言ってるぞ」 「ああもう、私が悪うございました」 やれやれ、と溜め息をついたに、苦笑する。 恋人と弟の仲が悪いってのは、厄介なものだ。どっちも愛しいのだから。 「……夜、電話する」 「え?」 「ユキの機嫌が直ったら、報告するよ。じゃないと、お前も気になるだろ」 「……うん」 ありがとう、と小さく言って、は頭を俺の肩に預ける。その艶のある黒髪を、ゆっくり、梳いてやった。 おそらく、ケーキは全部食べ終わってたぞ、という報告も、入るだろうな、というのは、まだ、内緒にしておく。 ・ねぇ、私のコト愛してる? 何てこと、言ってしまったんだろう。後悔は海より深く、私を溺れさせようとその手を無数に伸ばし来る。 逢えるだけで良くて、触れてもらえたら幸せ。 それほど儚い関係に、名を付けて欲しいと、私は言ったのだ。愛する家族のある彼に。 ねえ。 ねえ、私のこと愛してる? 凍り付いた彼の顔。背中越しでも、わかるわ。 彼を試して、彼を騙して、私は何をしたいのだろう。 昨日、あんなことを言っておきながら、彼を困らせておきながら。 私は今日、久宜に会うために、私を飾るのだ。 ・枯れる程愛して下さい 朽ちかけた恋にせっせと水遣りをして、枝を切り揃え、肥料を与えて、それでも繋ぎ止められないなら、私はそれを、きちんと埋めてあげられるだろうか。 「枯れる程愛して下さい」 打ち込んで、消す。 今日こそはあの人に、メールをしてみようと思っていたのに。 要領の悪い私を、まるで嘲笑うように、携帯は久宜からのメールを、受信するのだ。 ・好きだから辛いの 苦しくて苦しくて、それはどうしてかなんて、考えなくたってわかる。 好きだから辛いの、なんて、言えるわけがない。愛してはいけない人を愛して、報われない恋に溺れた私の幸福など、決して、願われてはいけないことだ。 誰も私を救わない。私を救えるのは、私にしかできないことなのだから。 なのに。 久宜のくれる愛はいつだって残酷に、私を救い続ける。 私に、幸福の夢を見させる。 ・寂しくて死んじゃうわ 久宜はいつだって変わらないあの笑顔で、私のわがままをはいはいと素直に聞く。 『俺の大切なを、悲しませたくないからなあ』 また、そんなこと言って。意地悪したくなっちゃうでしょ。 「じゃあ、十分以内に来て」 電話越しの声は、一瞬、明らかに狼狽して、いや、車を飛ばしても三十分はかかる距離だぞ、と言い訳する。 『せめて、十五分で』 「だめ」 はやく来て、抱きしめてくれなきゃ、寂しくて死んじゃうわ。 『…………仕方ないな』 ふ、と久宜の吐息が聞こえて、ああまた笑ってる、と思った。私はいつだって変わらないその笑顔を、本当に困らせることなんてできないでいる。 『じゃ、電話しながら行くから。それで勘弁してくれ』 「……しょうがないわね」 捕まらないでね、と言うと、を抱きしめるまでは何があっても捕まらない、と笑われた。 ・貴方の温もりを感じさせて 「………………ん」 それまですーすーと寝息をたてていたが、小さく呻いて、身じろいだ。 「?」 そっと名を呼んでみたが、どうやら眠っているらしく、反応は無い。 「……怖い夢でも、見ているのか?」 それとも、悲しい夢。 そこに、俺はいるのだろうか。 「」 もう一度、呼んで、起こさないようにそっと、腕の中へ引き込んでやる。 ─────貴方の温もりを感じさせて。そうして、私の温もりを感じて。 馴れ合いで構わないから。 「……まるで、小説のようだな」 自嘲の笑みを浮かべながら、呟いた。 |