を愛しく思うほど、その想いは俺をいらつかせた。 彼女が決して自分だけを見ることのない事実は真綿のように俺の首を取り巻いてゆっくりと引き絞られ、やがて呼吸も困難になる。 幸いなことに狂気は独りの晩を襲ってくれる。眠れぬ夜は大抵、一杯のコーヒーで穏やかに過ごせるが、偶には狂気が勝って、カップが粉々になる。すぐに飛んできて、どうしたの、と問うてくれる弟がいてくれて、本当に良かった、といつも思う。 せめて嘘でも、愛していると言ってくれたなら。 そんなふうに思うこともある。だがそれが叶ったとして、この苦しみから解放されることがないのも、悲しいかな理解してしまっているから、戯言はその辺にして自嘲の笑みで片付けて、今日もを迎えに行く。 春から夏へと移ろいゆく街を滑るように走り抜けながら、助手席に収まったは窓を開けて、あったかいわね、と微笑んだ。少し微睡んだような目元に、彼女も不眠気味なのだと悟る。同時に、誰を想って夜を明かすのかを考えて、小さく、鼻を鳴らした。 泣けばいい。 が泣いたら、俺が涙を拭ってやるのに。 だが、は泣かない、少なくとも、俺の前では決して。 俺がを許し続ける限り、は俺を苦しめ続ける。そんなことはわかりきっている。それでもなお、嘘でも打算でも虚構でも何でも、の隣にいられる今を、どうしたって手放せない。 誰かの一番になりたいだけなのに、それは何と難しいことだろう。 |