「ああ、それがいいな」
試着室から出てきたに気づいて、顔をあげた久宜は、うん、と頷いた。
「似合ってる」
「ありがとう」
口元だけで微笑んで、は傍にいた店員に、これ、貰います、と告げる。試着室へ戻ったが着替えをしている間に、久宜が会計を済ませて、二人は店を出た。
「楽しみね、日曜のパーティ」
「ああ。だが、本当にパートナーが俺でいいのか? 君の取り巻きには、エスコートの上手な紳士もたくさんいるだろうに」
「あら、だって私、ヒサノリが好きだもの」
だからパーティだって、あなたと一緒がいいわ。そう言って、は笑った。
の言葉は、いつも素直な彼女の気持ちを伝える。は久宜を好きだと言うが、愛しているとは、決して言わない。
「さて……どこかで、お茶でもしていこうか」
「タルトが食べたいわ」
「では、洋藍堂へ向かうとしよう」
そう言って笑ったところで、エレベーターは駐車場のある地下三階に着く。扉が開く前の一瞬に、が素早く、久宜の右頬に口付けたので、久宜は驚いたが、扉が開いて乗り込んできた他の客に怪訝そうにじっと見られたことと、先に降りたに、はやく、と促されたので、慌ててエレベーターを降りる。
「ドレスのお礼」
がにやっと、悪戯っぽく笑う。
それだけで、全てを許してしまえる自分を、久宜は阿呆と呼んでいた。