と出会ったのは、まだ早坂が望月の下で働いていたときのことだった。 望月の大学時代の友人で、外務省を退職後に旅行会社を創業した彼女の父、元造が、創業五周年記念のパーティを催した席で紹介され、二言三言、交わした。 第一印象はなかなかに淡白なものだった。 きれいな娘だとは思ったが、会話の受け答えも当たり障り無く、向こうもさしてこちらに興味を示しているようでもなかったので、数分の談笑の後、挨拶回りのために彼女の方がその場を離れて、それきりだった。 だから、一ヶ月ほどして、別のパーティ会場で彼女と再会しなければ、二人の人生が交わることは、今後無かったことかもしれない。 更に言うならそのパーティで、早坂がに興味を示すようになった一件も、その日がよく晴れて、三日月がきれいな夜でなければ、起こらなかったわけで。 つくづく、偶然というものは、怖ろしいほどよく出来ている。 事は至って簡潔だった。 軽い酔い覚ましにパーティ会場からテラスへ出た早坂が、同じく喧騒を離れて空を眺めていたを見つけ、声を掛けた。 の方でも偶々、妻子ある男との道ならぬ恋が深まって思い詰めたところへアルコールも手伝って、少々多弁になっていたものだから、ほろ酔い気分に任せて、早坂との談笑に興じた。 そしてふと、会話の止んだ折に。 三日月が一番、好きです。 これから膨らんでいく、希望を抱いてるでしょう。 月なんて太陽が無くちゃ、輝くこともできないんですけどね。 そういうとこが、私に、似てるみたい。 独り言のように、ぽつり、呟いたのである。 早坂はもちろん、の心中など何一つ知らないし、の方でも、早坂に理解を求めたくて言ったわけではなかった。 けれど、ほんの少しだけでも、が早坂に本音をこぼしたこと。 そして早坂が、三日月を好きだと言ったを、美しいと思ったことが、その後の二人の人生を、大きく変えていく引鉄として作用するなど、誰が予想したであろう。 月は常に空にあって、黙って人を見下ろすだけだ。 |