傷痕を這う舌の温度に、脳が温く蕩けていく。 女の吐息と己の吐息とが、絡み合って交じり乱れ、酷く卑猥に感じられる。余計に、昂る。 頬から首筋へ、首筋から胸へ、胸から背へ、腹へ、腰へ、角度を変え、速度を変えしながら、は兵衛の傷を舐めていく。それは彼の過去と犯してきた罪を、辿りながら舐め取って、浄化していくことを目指した行為に思えた。 「…………、ン」 ちゅぷ、と小さく、粘り気のある水音をたてて、咥えていた親指の先から唇を離すと、押し戴いた兵衛の左足をゆっくりと布団へ戻し、は目を伏せる。 「―――──仕舞いか」 布団の脇に脱ぎ捨てた衣を探るの背に、上半身を起こし、兵衛は問うた。 「私の手には、負えませぬ」 「何が」 「ソレ」 気だるげに、兵衛の枕元を一瞥したの視線を辿ると、一振りの刀。 「……………」 「兼定、『憑いて』おりまする」 「……………」 「何とかしたいのでございましょう」 「……なるのか」 なりまする、と即答したは、ただし、と言葉を続けた。それなりの『覚悟』が必要だと言った。 「海が良いでしょう、大地から切り離された場所は、試練を与えます故」 「どのみち、この地を捨てるつもりではあった」 「それは、良い心掛けです」 くつくつと咽喉を鳴らす。 「大切なのは、きっかけですから」 襦袢を羽織りながら、は静かに言う。その言葉には当然のことという響きがあり、疑う心をすら、兵衛に抱かせなかった。 「──―――それはそうと」 腰紐を結ぼうとするの手を止めて、兵衛はくと、自分の方へ引き寄せる。 「散々人の体を舐め回しておきながら、俺の好きにはさせぬつもりか」 「あら」 少し、驚いたように目を開いて、は兵衛を見つめる。 「抱きたいのですか」 「無論だ」 大真面目に頷いた兵衛に目を細めて、は笑う。 纏った衣を再び肌蹴させる兵衛の手を、拒むことはしなかった。 |