三ヶ月ぶりのの部屋は、物の配置からカーテンの色、焚き込められた香の匂いまでが、正守の知るそれとは大分様変わりしていて、困惑した。というより、肩身の狭い心地がした。
「………あー、えっと」
「なあに?」
急須と湯飲みを二つ載せた盆を持って戻ってきたが、小首を傾げる。
「その、随分と、大胆に模様替えしたもんだな、と思って」
「あらそうかしら、でもこうしてからだいぶ経つけれど」
まずいな、と思った。これは、完全に。
「怒ってないわよ」
忙しかったんだものね、と、お茶を注いだ湯飲みを正守に差し出しながら、は言ったが、それさえ先手を打たれただけのようで、いまさら謝罪も切り出しづらい。
確かにここ最近、厄介な仕事が続いていて、連絡も月に二、三度程度、入れたか入れなかったか。悪いとは思いつつも、の方でも普段から、そう不満を言うこともないものだから、知らず、そういう部分に甘えていたところが、無かったとは言えない。
どうしたものかなあ、と思いあぐねながら、湯飲みに口を付ける。
「───……うん」
「え?」
「お茶は、替えてないんだな」
「………ああ、ええ」
怪訝そうに頷いたに、正守は微笑む。
「俺がこないだ、お土産に持ってきたやつ、だよね」
「……そう、ね」
「これ、旨いよなあ」
「そうね」
「でもが淹れたのが、やっぱり一番好きだなあ」
組み違えたような違和感のあった空気が、だんだんと、慣れ親しんだ柔らかさに戻っていく。
素っ気無かったの返事がとうとう返ってこなくなったけれど、今なら、言えるかな、と思った。
「ごめんな」
「どうして謝るの?」
「たまにしか、傍にいてやれなくて。部屋の模様替えしたのだって、全然知らなかった」
「あ、これは……仕事の都合よ」
の家は代々キヨメの能力を継ぐ家系なので、お祓いなどの依頼を受けることがある。少し強い霊だと落とした際に周りに穢れが残る場合があり、そうなると家具などは改めなければならないこともあると、以前、聞いたことがあった気もした。
「仕事忙しくて、あんまり電話もしてやれなかった」
「あなたの所為じゃないでしょう、そんなの」
「でも、仕事を理由にしてた。それを謝りたいんだよ」
「怒ってないってば」
「俺は、謝りたいんだよ」
は、自分を殺し過ぎている。そんな風に感じることがある。
本当はもっと素直に怒ったり不満をぶつけたりしたいだろうに、ちょっとでも拗ねたような態度をとってる自分を、きっと許せていない。そういう矛盾が、彼女の中を渦巻いている。
だから、正守の謝罪の言葉は彼女自身を、苦しめているはずなのであって。
そんなことわかってて、それでもこんなことを言う俺は、がいとしくてしかたがない。
少し困ったような顔をするが、いとしくてしかたがないだけだ。
「そうだ、これ……お土産」
ふと思い出して、懐から取り出した包みを、彼女に差し出す。
「いつものお茶、ね」
「……あ、ええ」
「頼まれたらいつでもいくらでも、買ってくるよ」
「…………ありがとう」
少し、くすぐったいような時間。どことなくぎこちないの応えに、正守は、くすくす笑う。
触れて良いか、と問うと、やっと、降参したように、は微笑んだ。