鐘が鳴る。
しんしんと雪降る街に、這うように伸びゆくように、鐘の音が染み渡る。
年越しくらいは家でのんびり過ごしたいと思っていたが、一年最後の仕事は予想以上に骨が折れた。今日ははやくから蕎麦の準備もして、火燵に蜜柑でも籠で盛って、……年が明けたら、彼に一番に電話しようと思っていたのに。
一時間ほど前から舞い始めた白が触れた頬に、手袋の左手をそっとあてると、寒さに身を縮めながら足早に、アパートへの道を歩く。
階段を上がりながら、もうしばらく会っていない彼に、想いを馳せる。
今、あの人、どこにいるんだろ。
その街にも雪は降ってるかな。
風邪ひいてないといいけど。
会いたいなあ。
「─────……あ」
辿り着いた三階に、蹲る人影が見えて、それが自分の家の前にあることに気付いて、そして、それが思いがけない人だったことで、思わず、声が漏れた。
「……うそ、正守くん?」
「あ、。おかえり」
「た、ただいま……じゃなくて!」
「あはは、あけまして、おめでとう」
こちらに気付いて立ち上がって、驚いている私に笑う。
「なん……何でいるの」
に会いたかったから」
「だって、仕事は?」
「無いよ。無いことにした」
「な」
何それ、と言おうとした唇を、伸ばされた人差し指が制止した。 触れた指先は、冷たい。
「……いつから待ってたの」
「ん──、一時間くらいかな」
「雪、降ってたのに」
近くにコンビニだってある、何もこんな寒いところで、わざわざ待っていなくてもよかったのに。
「今年一番に、に会いたかったからね」
「…………もう、いいわ」
溜め息をつき、鍵を取り出す。そっけない態度は照れ隠しだって、きっと気付かれてるんだろうな、なんて思って、少し笑った。
「何?」
「ううん、何でもない」
振り向いて、不意打ちのキスと一緒に、ありがとう、ほんとはうれしい、と囁いて。
「あけましておめでとう」
とびきりの笑顔で、彼を迎え入れた。