明け方に、目が覚めた。
陽は未だ昇らない。
隣で寝息をたてる正守の顔を、じっと見つめる。きれいだな、と思う。
はいつも、正守をきれいだと思う。あまり男の人に対して使う言葉ではないので、本人に言ったことはない。それどころか、誰にも言ったことがない。ないけれど、きれいだと思っている。
どこが、とか、どんなふうに、というのは、自分でもよく、わからない。
彼が考え事をしている時だとか。
今みたいに眠っている時だとか。
じゃあね、と言って手を振って、去っていく背中だとか。
そういう、瞬間ごとに、あ、きれいだ、と、思う。
そして。
泣きたい気持ちになる。
どうしてだか、これもやっぱり、わからない。
燃えるような赤を焼き付けて沈んでいく太陽。
呑み込まれそうなほどの満天の星空。
夜明けの山の端を染める乳白色の雲煙。
そういうものに触れたとき、人が自然に流す涙。それに似ている。
締め付けられる感情。
胸の騒がしくなるのを、抑え切れない。
「─────……私は、きれいじゃなくても、あなたが好きだわ」
でもあなたがあまりにきれいだから、ときどき少し、不安になる。
「あなたを好きだということは、あなたが大切だということ、なんだけど」
だから、あまり遠くへ行かないでね。
相変わらず規則正しく寝息をたてる正守の、閉じた瞼にそっと、唇を近付けた。