『正守くんのバカ、大っ嫌い!!』
の声はそれが最後で、追いかけるようにしてブツッと勢いの良い通話切断の音がして、それきり、携帯はツーツーとしかいわなくなった。
「─────まいったなあ」
ぽりぽりと頭を掻いた正守は、とりあえず携帯をたたむと、文机に置く。
烏森に帰ってきてるなら、顔くらい見せろ、か。……だから、明日にでも行くよ、って、言おうと思って電話したんだけどなあ。
また電話するわけにもいかないし、などと考えをめぐらせていると、ふと視線を感じて、正守は振り向いた。
「……良守、いたのか」
「聞ーいちゃった」
ププ、と笑いを堪えながら、障子越しにこちらを見ている弟に、溜め息混じりに、あんまり人に言うなよ、と釘を刺す。
「『大っ嫌い!!』だってさー、ついに破局?」
「……あのなあ良守」
すっと立ち上がると、からりと障子を開け放して、正守は良守を見下ろす。
「な、何だよ」
「いいこと教えてやるよ」

女の『大嫌い』は、『大好き』の裏返しなんだよ。

「……意味わかんね」
「あっはっは、良守にはまだ早いか」
「笑うんじゃ……あっどこ行くんだよ」
んとこ」
「今から!? 怒らしたのさっきの今だぞ!?」
「女の嘘にはだまされてやるのがイイ男なんだよ」
「だから、意味わかんねー!!」
ひらひら、と手を振った正守の背中は、夜の廊下を玄関の方へと消えていく。



それから翌朝まで帰ってこなかったので、おそらくは仲直りしたのだろう。
良守は、何とも腑に落ちない気分だった。