頭が痛い。吐き気がする。 嫌な予感は的中した。 「──何であなたがいるんです、」 これ以上ないほどげんなりと肩を落として、ドミニクは後部座席に問うた。 「たまにはあなたの仕事振りを見たいな、と思って」 おもしろい趣向でしょう、とは笑った。ドミニクは深く深く溜め息をつき、頭を抱える。 「何てことだ、私に、あなたを守りながら仕事をしろと言うんですか。ただでさえ厄介な相手なんですよ、それをグレゴもリリアーヌも怪我で療養中の今、むりやり依頼してきたうえ、そんな難題までふっかけてくる」 くっきりと色濃い隈の皿に載った虚ろな瞳が数回、を捉えては放す。彼特有のその忙しない動きを、彼女は黙ってにこにこと眺めていた。 「ああやっぱり、あなたからの依頼なんて引き受けるんじゃなかった」 「ふふ、そう言わないで」 小首を傾げるの花のような微笑みは、まるで悪びれた様子もない。 「ね、邪魔はしないから」 「いるだけでじゅうぶん迷惑なんですよ。ああでも今さらここから一人で帰すわけにもいかないし」 「さすがドミニク! そういうところは紳士ね」 「依頼主に何かあってはもらえるモノももらえませんからね」 「ビジネスライクな理由ね」 はがっかりしたような声を出したが、それもすぐに笑顔に変わった。完全に、この状況を楽しんでいる。 「ああ、不安だ……」 「不安?」 ぐったりと車に凭れたドミニクの言葉尻を拾って、は首を傾げた。 「どうして?」 「だって当たり前でしょう!? 厄介事ばかりのこの仕事には、憂いしか感じませんよ」 「憂い、ねえ……」 「……まあ、あなたには一生、縁のない感情でしょうけど」 実際、今までそんな思いをしたこと、一度もないんでしょうね、とドミニクが嫌味を言うと、うん、知らない、と明るい声でが答えた。 ドミニクの溜め息は、深くなるばかりである。 |