「トルコ」 「何だぃ」 「ずいぶんね」 は言った。彼女の目の前に横たわった大男は、荒い息遣いで笑う。体中から吹き出した血液が、纏った甲冑を赤黒く染めていた。 「ずいぶんとは、ずいぶんな言い草してくれるねぇ、誰のためだと思ってやがる」 「それもそうね、ごめんなさい」 トルコの言葉にもっともらしい顔をして、は謝罪の言葉を述べたが、その言い方はひどく淡々としていて、機械的に感じられる。彼女らしいといえば、彼女らしいのだが。 「ありがとう、感謝しているわ」 「そうかぃ」 「でも、だめだったみたい」 「何」 「これ」 力の入らない腕で何とか半身を起こしたトルコに、は、煤けて縁の欠けた碗を差し出す。 「コーヒーよ、好きでしょう」 「飲めってぇのかい」 「元気が出るわ、きっと」 「ったって、おまえ」 「もう行くわ」 顔をあげたトルコの前には、誰もいなかった。 空がやけに低く、淀んだ白濁色にぼやけて見える。しばらくそれを眺めて、それが空ではなく天井だと気付く。 トルコは、自室のベッドに横になっていた。 甲冑の重みも傷の痛みも、思い出そうと意識するほど、煙のように逃げていく。ただ汗ばんだ肌にシャツがはりつく感覚だけが、奇妙なまでに現実を伝えている。 「……」 呟いた傍から、彼女の面影さえも、掻き消えていく。 トルコはキッチンへ向かった。 コーヒーを淹れたい気分だった。 |