「相変わらずですね」
応接室へ入るなり壁のぐるりを見回したは、開口一番、そう言った。その言葉は、所狭しと展示された武器の数々へ向けられている。
「ナイフ大小、刀剣、自動小銃が五丁、槍、ボーガン……大したものです」
「すべて国産である」
「武器マニアの家に来たようですよ」
「誰のためだと思っているのだ」
溜め息をついたスイスに、わかっています、ごめんなさい、と微笑んで、は肩を竦める。が、スイスが紅茶を淹れている間も、興味深げに手近な小銃を右の人差し指で突付いたりしている。
「手に取って見ても構わんぞ」
「あら、軽い」
「ここにあるものはほとんどがレプリカだからな。メーカーから送られてくる試作品などが主だ」
「なるほど」
は暫く、手中の黒の光沢を矯めつ眇めつ眺め回していたが、やがておもむろに指を絡ませ左手を添えると、狙いを定め、くっと引鉄を引いた。もちろん、弾丸が飛び出すこともなければ空砲の破裂音がすることもなく、カチカチと部品の接触する音がするだけだ。
「似合わんな」
ちら、とを一瞥したスイスの言葉はにべもない。そうですか、と柔らかく笑んで、は銃を壁に戻した。
「私には、銃よりも花の方が映えますものね」
「まったくそのとおりだが、自分で言うことではないな」
ソファに掛けたはスイスから紅茶を受け取ると、そういえば、とふと、話題を換える。
「この間、日本さんにお会いしましたよ」
「ほう」
「穏やかで思慮深そうな方ですね、年の功というのかしら」
「あれを思慮深さと受け取るか。物は考え様だな」
「あなたのことも話題に上りましたよ」
「大方、また山麓に住まう老人と少女と犬の話でもしたのだろう」
「ふふっ、何ですか、それ」
可笑しそうに笑ったは、再び壁に視線を這わせる。
「今度あなたと、ヤブサメというのをご一緒したいそうですよ」
「何だ、その、何とか言うのは」
「ヤブサメ。駆ける馬の背から弓で的を射る競技だそうです。あなたは、弓が得意だろうから、って」
「弓? 我輩がか」
「リンゴがどうとか、仰ってましたよ」
「……ああ」
漸く合点がいったらしく、またあいつは下らない勘違いを、と額に手を当てたスイスに、はくすくす笑う。
「……まあ、得意でないということもない」
「随分と遠回しな表現」
「では期待に応えて我輩の腕を披露してやろうか、駆け抜ける馬の背から矢を放って、お前の頭に載せたリンゴの真芯を、正確に射抜いてやる」
「遠慮します」
早々に拒否を表明したに、何だつまらん、外しはしないぞ、と不敵に、スイスは笑う。
だが彼が本当に射抜いてみたいのは、実はリンゴではない。
彼女の心の方だった。