障子をうすく開け、凍える風に小さく震える庭を眺めていた日本は、ふと、部屋へ近づく衣擦れの音に振り返る。
さんですか」
「やはり、起きてらしたのですね」
やれやれといった口調で女性の声が応えて、襖が音もなく開く。長い黒髪に白の夜着を纏った痩身の女性を招き入れ、再びすうっと閉じた。
「お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとうございます」
「今夜は月がきれいだこと」
「ええ、本当に」
湯飲みを受け取ると、微笑んだの視線を辿って、窓の外を見遣る。雲一つない夜空は黒々と艶めいて、鏡のような白銀の満月が鋭い月光を放っていた。
熱い緑茶を啜ると、喉から管を通り抜けていく温度に、知らずのうちに己の体の冷えていたことを思い知る。思わず身を竦めると、くすくすとが笑う。気恥ずかしくなって、こほんと一つ咳をしたが、そのわざとらしさに、却って墓穴を掘ったような気持ちになる。
「……さん、もうお休みなさい、今夜は冷えますから」
「そういたします。あなたもどうか、お風邪を召されませんうちに」
目を伏せながら促すと、文机の上の書類を一瞥してから、が返した。
「お仕事も、ほどほどに」
「……わかっていますよ」
終始柔らかく笑んだままのに、彼女には勝てないと思った。