には、スズランが似合う。
それはギリシャが常日頃から彼女に対して抱いていた感想だったので、彼女との待ち合わせ場所へ行くまでに通りかかった花屋でスズランを見つけたとき、ギリシャは迷わず、それを買った。
の喜ぶ顔を思い浮かべながら進む足取りは当然軽い。羽根でも生えたかのように踏まれるステップは、しかし、公園の入り口でぴたりと止まった。
「あ、ギリシャさん、こんにちは」
「よう」
「…………何でトルコがいるんだ」
待ち合わせ場所の公園のベンチには、と、の肩に手を回して悠然としたトルコがいた。
「何でってそりゃあ、たまたまさ」
「たまたまそんなにタイミングよく、俺との待ち合わせ場所に現れるなんて、おかしいだろ」
「おかしかあねえさ、なあ
「えっ、あ、はあ……」
「……に、べたべた触るな」
トルコが肩を抱いたの頬に顔を近づけて言ったのを、ギリシャがきっと睨みつける。明らかに機嫌の悪いギリシャとそれをわかったうえでからかうような態度をとるトルコの間に挟まれて、はおろおろと二人を交互に見て、何とか穏便に事を運ぼうと口を開いた。
「あの、えっとギリシャさん、誤解なんですよ。トルコさんは本当に、たった今、たまたま公園に散歩にいらしていて……お見かけしたので、私が声をかけたんです」
「ほれ見ろぃ、たまたまだろう。それともおまえさん、の言うことを信じないってのかい?」
「……が、そう言うんなら、たまたまっていうのは信じる」
依然ぶすっとした顔のまま、ギリシャは申し訳程度に頷いた。はほっと胸を撫で下ろす。
「──そういえば、ギリシャさん、お花なんて持ってらっしゃるの、珍しいですね」
「あ、うん……これ、に似合うと思って」
に話題を振られて、ぱっと笑顔になったギリシャは、スズランをに差し出す。も笑顔で、わあ、ありがとうございます、と言ってそれを受け取った。
傍では、今度はトルコが、面白くなさそうな顔でそれを眺めている。
「けっ、おまえさんはほんと、センスねえなあ」
「……おまえ、もう帰れ」
に花を贈るなら、俺なら迷わず、カサブランカを選ぶね」
「うるさい。何でそんな大きな花……はいっぱいのスズランに囲まれてるのがいいんだ」
「わかってねえなあ、カサブランカの持つあの気高さ。そのものじゃねえか」
「スズランだ」
「いいや、カサブランカだね」
結局、再び口論が始まってしまった。は眉尻を下げて、溜め息をつく。
の本音としては、スズランもカサブランカもどちらも好きだし、二人にはもっと仲良くしてほしいのだけれど。
「スズラン!」
「カサブランカ!」
言い合いは、一向に終わる気配を見せないどころか、白熱してきている。こうなってしまうと、制止しようにも周囲の声はもう二人に届かないことを、経験上、はよく知っていた。
だからベンチに腰掛けると、一通りいつもの口喧嘩のプロセスがこなされるまで、気長に待つことにした。