は花の香りがする。
フランスがそのことに気が付いたのは、ある昼下がりのことだった。春を待ち切れない街の陽気が華やかなまでに庭を満たしている、そんな日だ。
昼食を終え、二人は何をするでもなく、ソファに並んで座っていた。半分だけ開けた窓からときおり吹き込む風はもうだいぶ陽の光にあたためられて、真っ白なカーテンをふうわりと揺らしていく。大きなゆりの花の、首をもたげては下ろし、もたげては下ろしする様を見ているようで、心地が良い。その心地良さに酔うような感覚が取り巻いて、二人は半ばゆめうつつであった。
「あーなんかいい匂いがするなあー」
恍惚とした表情で鼻をひくつかせながらの肩を抱き寄せたフランスは、軽くウェーブのかかった栗色の髪に顔を埋める。は、くすぐったいわ、と笑った。
「今朝はバラ風呂にしたの。あたたかいお湯に身を沈めて、シャボンとバラの香りに包まれて。あの深い赤に囲まれていると気持ちがすうっと穏やかになるのよ」
とってもすてきだったわ、とうっとり話すに、そーかそーかと頷きながら、フランスは鼻腔いっぱいに空気を吸い込む。
このまま夢に落ち入りそうなほど、それはたしかに、幸せそのものであった。