「──……、ん」
暖炉で薪の爆ぜた音に、びくんとして顔を上げる。どうやら寝ていたらしい。
ぼうっとする頭のまま、ゆっくりと辺りを見回す。図書館は静かで、自分の他に生徒は一人しかいなかった。

思わず呟いてしまってから、はっと口を押さえた。呼ばれたは顔を上げて、ゆっくりとイギリスの方へ振り向く。
「おはようございます、会長」
「……おまえ、いつからいたんだよ」
「三十分くらい前からですよ」
ということは、イギリスは三十分以上寝こけていたことになる。恥ずかしさを押し隠そうと、起こせよな、とぶっきらぼうに言うと、あんまり気持ち良さそうだったので、と薄い笑顔で返された。
二人はそれぞれ長机の端と端に掛けていたが、不思議と、会話に困るほどの距離を感じなかった。他に誰もいないこともあったろうし、暖炉があたためた部屋の空気が、何とも言えない居心地の良さを作り出していたからかもしれない。
「……なあ」
「はい?」
テストが近いので、勉強をしていたのだろう、ノートに視線を戻したに、イギリスは再び声をかける。
「窓の外に、何かあったのか?」
「え?」
「見てただろ」
イギリスが起きたとき、たしかには、手を止めて窓の外を見ていた。ああ、と納得しては、ほら、と外を指差した。
「雪が降ってきたなあ、と思って」
「あ、本当だ」
ガラスの向こうを、白い小さな花弁が、ひらひらと舞っていた。やべ、傘持ってこなかった、と眉を下げたイギリスに、はくすくす笑う。
「雪って、音を吸い取っちゃうんだそうですよ、先輩知ってました?」
「あ? あ、当たり前だろ」
「私の故郷は、あんまり雪降らないとこだったんです。未だに、何だか珍しくって」
それで、見てたんです。そう言って微笑んだを、イギリスは、やっぱりきれいだ、と思った。
窓の外を見ていた彼女が気になったのは、その横顔が息を飲むほどきれいだったからだ。白くぼやける光の世界へそのまま溶け入ってしまいそうなほど、儚げで、不確かで、たしかにそこに在ると強く実感しなければならないと思うほどに、美しかった。だからつい名前を呼んでしまったし、彼女が見ていたものが何だったのか、気になってしまった。
が外を見ていた理由はわかったが、イギリスの中には今になって、後悔がむくむくと育っていた。いつもは小憎たらしいことばかり言うから気付かなかったけれど、黙っていればあんなに美人なのか。やはり先ほど、声なんかかけずにもうちょっときれいなを見ていればよかった。はあ、と小さく溜め息をついたイギリスを、は不思議そうに振り返る。彼女の肩口で切り揃えられた黒髪が、小さく揺れる。
にこ、と笑顔になったは、自分の口元を指差して、言った。
「会長、ここ」
「……あ、?」
「涎、ついてます」
「──バ、……ッ!」
早く言えよそういうことは! イギリスは今度こそ真っ赤になって怒鳴りながら、大慌てでトイレへ駆けていった。
ちくしょう、あいつはやっぱり、ああいう奴だ。