不意に襲われた眩暈に、イギリスは目頭を押さえた。 仕事が溜まっていた。職場も家も机の上と言わず周りと言わず書類が山積みされて、イギリスの処理を待っている。こなしてもこなしても終わりの見えないその山に、うんざりしている暇もないほど、彼は今、忙しかった。しかし。 一つ、大きく息をつく。だが米神に感じるわだかまりは、一向に去る気配を見せない。 これ以上無理を重ねるべきでないことは、とっくに体からの警鐘でわかっている。だがほんの少しと思って休んでいる間にもまた増えるであろう書類のことを思うと、とうてい机を離れることはできそうになかった。 ふと、机の端に見えた白い封筒に目を留める。 大判の茶封筒やら二十枚束ねの資料やらが乱雑に置かれた中で、葉書サイズのその封筒は居心地が悪そうに、少し机からはみ出している。仕事関係のものにしては小さいそれを、さて何であったかと疑問に思い、手に取った。 「……え」 思わず声が漏れる。 送り主は、今は遠い地にいる、彼の最愛の人だった。 「が手紙なんて……珍しいな」 平静を装いながらも、届いていたことにすら気付かなかった自分に、イギリスは少なからずショックを受けていた。いくら仕事が忙しくても、から電話があればきちんと応じるし、手紙もまめにチェックしているつもりでいた。 消印を確かめる。逆算すると、昨日には届いていたことになる。朝刊やほかの手紙と混ざってしまって、気付かなかったのだろうか。 「……………」 封を切り、手紙を読んだイギリスは絶句する。 ──倒れる前に、休息はとってくださいね。 間違いなくの手による文字が、ただその一文を、今のイギリスに伝えている。 そのことだけで、胸が詰まるような思いがする。 溜め込みやすい己の性格だとか置かれている立場にかかる重圧だとか、そういうものがすべて彼女には筒抜けで、そのことで心配をかけている。 それを、こうして伝えてくれる。 そういう存在がいてくれるということが、どれほど嬉しいことなのか。不確かな感覚ではあった。けれどたしかに、自分は涙が出るほど幸せな男なのだと、少なくとも今は思うことができた。 迷うことなく、イギリスはペンを置いた。机を離れると、ベッドへ直行する。 誰かのために自分を大切にするという行為が、こんなに素晴らしい気持ちになることを、初めて知った。 |