立てた膝に右の肘を置いて、頬杖をつく。 視界の端にしゃがみ込んだ少女を、見るとなく眺めている。 蒸かしたての肉饅を左手で掴んで、無造作にかぶりつく。 何事かひらめいた様子の少女が、短冊に覆い被さるのを見守る。 「」 「できました」 花の咲いたような笑顔で振り返って、大事そうに短冊を抱えて少女が駆け寄ってくる。どれ、見せてみるあるよ、と彼女から短冊を受け取る。 「ちょうちょうのうたです」 「ほお、これは」 短冊には流麗な筆の運びで、秀絶な詩句が綴られていた。ちょうちょうのうた、と少女が説明するとおり、春の庭に舞う胡蝶の群れの情景が、凝り過ぎず精妙に技巧の施された五言律詩のなかに、豊かな色彩と溢れんばかりの情感を以って詠み込まれている。思わず嘆息を漏らすに値する、まさに絶佳の極みであった。 「は本当に、詩を詠むのが上手いあるな」 「ほんとうですか」 うれしそうに、少女は目を細める。ふっくらと白い頬が、ばら色に染まる。 「は、詩が好きあるか」 「はい、にいさまがほめてくださるから」 「ああ、かわいいことを言ってくれる」 おいで、と手招きすると、両手で抱き上げる。少女の体は羽根のようにふわりと浮き上がって、膝の上に落ち着く。 「、我のかわいい妹。兄様のことは好きあるか」 「はい、だいすき」 「じゃあ、詩を詠むのと兄様のことは、どっちが好きあるか」 「えっと」 結うには幼く、肩口で切り揃えられた艶めく黒髪を、いとおしさを込めて撫でてやりながら訊くと、少女は困ったような顔をする。 「どちらも、ではだめですか」 「兄様と言ってほしかったあるが……まあ、いいあるよ」 硯がかわいいから、許すある、と言って、ぎゅうと少女を抱き締める。にいさま、くるしいです、と少女は、腕の中でじたばたする。 この蜂蜜色の昼下がりが、永久に続くかとさえ思えた。 それは、彼らがまだ、平穏の満ちた世界しか知らなかったころのこと。 |