は朝からご機嫌斜めだった。
「何よカナダったら、せっかくあたしが遊びに来てあげたっていうのに、仕事仕事って」
「だって仕方ないじゃないか、君が僕のところへ押しかけてきたのが一週間前だろ、その日から六日間、仕事する暇もなく君にカナダを案内して回ってたんだから」
「あなたが案内してくれなかったら、あたしはどうやってカナダを観光したらよかったのよ。まさか一人でさせるつもりだったわけ?」
「えっいや、別にそこまでは……言ってないじゃないか」
目をつりあげたの剣幕に圧され、カナダは言葉に詰まる。それをいいことに、はたたみかけるように非難を浴びせる。
「だいたい六日もかかったのだって、あなたの手際が悪いからでしょ。車を出したらガス欠で動けなくなるし、電車で行けば時刻表が旧くて使い物にならないし、降水確率九十パーセントの日に絶景ポイントへ連れて行こうとするし」
ほかにも、珍しいものがあるからと聞いて出向いた博物館が休館日だったり、プリンスエドワード島へ行こうとしたときなど、飛行機のチケットを手配し間違えて、空港で五時間も足止めを食らったのだ。そういう数々の失敗談をあれこれと挙げ連ねて、だから仕事ができなかったのはあくまでカナダ自身のせいだと、は言い張った。
「これがアメリカだったら、こうはならないわよ」
「あっ君まで、いつもいつも僕とアメリカを比べて」
「本当のことじゃない」
「そりゃあ……そうだけど」
にべもなくぴしゃりと言われて、カナダはぐうの音も出ない。しょんぼりと項垂れた。
「わかったよ……じゃあ今日は、おいしいメイプルシロップを売ってる店に連れて行くよ」
「すてき! みんなへのおみやげにするわ!」
ぱっと顔を輝かせて、は立ち上がると、準備してくるわ、と言って寝泊りしている部屋の方へ駆けていく。
「せいぜい、あたしを退屈させないでよ」
階段を駆け上がるの楽しそうな声に、カナダは、はああ、と深い深い溜め息をついた。