夕立に降られた。
B級エージェント、それも十傑集の補佐官ともなると、外回りの仕事は本当に珍しいことなのに、よりによってこんな日に。イワンは、自分の不運に知らず、舌打ちする。それに、あら、と振り向いたは、反してさっぱりとした笑顔で、楽しくなさそうね、と言った。
「そりゃあ、そうです。いったい、何が楽しいというんですか、雨なんて」
顔も声もたいそう不機嫌に、イワンはぶすくれる。こんなにずぶ濡れで、いったい何が。
「私は好きよ、雨に濡れるの」
可笑しそうにくすくすっと声をたてて、は答えた。だって、気持ちがいいじゃない。
一見すると逆境である状況を楽しめるのは、の長所ともいえる。彼女のそういうところを、イワンは、嫌いではなかった。
さらさらと小川の流れのような雨音が、二人を取り囲んで、世界を満たしている。
の軽やかな足取りは、さながら雨垂れのようだ、そう思うと、何だか楽しいような気がしてきた。