宿舎へ帰り着く前から、ローザはいつも以上にうきうきしていた。
久しぶりに長期休暇が取れそうなのだ。ここのところアルベルトの出張帯同や特別エージェント対象のセミナー参加などが多く、連休すらまともに取れていなかったのを見かねた孔明が、部下を働かせ過ぎだとアルベルトに物申したらしい。仕事は好きだし見聞の広がるのも楽しいのだが、思い切り羽を伸ばせるのは、やはり嬉しい。
それにしても十連休とはずいぶんと奮発してくれたものだ。ショッピングや部屋の模様替えなどこまごまと楽しむのも良いが、ここはいっそのことぱあっと旅行にでも行こうか。ただし観光スポットを駆け巡るような忙しないのはいただけない。シンガポールの極上スパでのんびりエステ三昧……うん、それがいい!
そうと決まれば居ても立ってもいられない。鼻歌どころか即興の節回しで歌いながら、何着て行こうかな、とクローゼットを漁り始めたローザは、さらにいいことを思い出した。シンガポールといえば、つい先月、が出張で二週間ほど滞在していたではないか。
おすすめのお店とか教えてもらわなくっちゃ、ていうかガイドブック貸してもらおう、と思い立ったが早いか、ローザはるんるん気分の向くままに、の部屋を目指して自室を出た。
ー、まだ起きてるでしょー?」
ブザーを押しながら同時に部屋の中へ声をかける。今日は残業もほどほどに帰ってきたつもりだったが、楽しい楽しい旅行の計画を立てている間にいつのまにか夜も更けてきていた。
「──……ローザ、どうしたの、こんな時間に」
「ごめんごめん、実は貸してほしいものがあってさ。ていうかいろいろ話も聞きたいんだけど」
ややあってひょこっとドアから顔だけ出したは、少し頬を上気させ、どことなく狼狽した様子で、話って何? とだけ聞く。
「実は今度の長期休暇にシンガポールへ行きたいのよ。で、ガイドブック貸してほしいなって」
「そ、そう……ああ、ええと、うん、そうね」
「何その反応。でね、こないだの出張中の話とか聞かせてほしいんだけど、ま、とりあえず中で」
の妙に素っ気無い態度がいつもと違うなとうっすらとは感じながらも、旅行のことで頭がいっぱいのローザは、半ば強引に部屋へ入ろうとする。
「あっあー、えっと……その、今、部屋、散らかってるから」
「またまたあ、散らかってるっていうのは、私の部屋みたいなのを言うのよ」
ケチケチしないでとっとと入れなさいよ、と、懸命に阻むと組み合うような形で部屋へ頭を突っ込んだローザは、そこで初めて、奥にもう一人いるのに気がついた。
ソファに深く身を沈め、両手で頭を抱えたイワンが、恨めしそうにローザを睨み付けている。解いたネクタイを膝に乗せ、シャツのボタンを三つほど外して、日頃のきっちりとした印象とはずいぶんかけ離れている。そういえば、視界の端で額に手を当てため息をついたもまた、キャミソールにブラウスを羽織っただけという、しどけないいでたち。
あ。
え。
あ──……。

ひょっとして、私、やっちまったんだろうか。