「───ま、そんなに呑んでは、お体に毒と申しておりますのに」
刺身を盛った皿を円卓に並べながら、は呆れたように言う。構わず、樊瑞は猪口をぐいと傾けた。
「呑まずにはおれんわ、おのれ孔明……わしを、誰だと思って」
「まったく……また喧嘩してらっしゃったんですか」
ほうっと溜め息をついて小皿に醤油と山葵を溶くに樊瑞は語気も荒く、うぬっ喧嘩などではない、わしの仕事を、奴が阻んでおるのだっ、と唾を飛ばす。もう慣れたことではあるが、毎度毎度よくもまあ飽きずに、と思うと、の溜め息は尽きない。
「地中海に、幹部専用のヘルスケア施設だと……そんなものを建てる金が、どこにあると……」
「あらあ素敵! 孔明先生が立案なさったのなら、きっと豪華な温泉施設なんでしょうねえ、行ってみたいわあ」
っお主、……温泉なら、先月箱根に連れて行ったではないか」
うっとりするに、樊瑞は困惑したように、あれでは不満だったのか、と問う。そういうことじゃありませんけど、と訂正してから、は、少し拗ねたような顔をつくってみせる。
「箱根の老舗旅館だって、そりゃあ、楽しかったですよ。昔手塩にかけた子が若女将としてほんとに良くしてくれたし、お湯もとっても素晴らしかったです。けどね、新しいとこにだって、行ってみたいんですよ」
それが女心ってものなんです、と言い切って、は銚子を差し出す。あ、うむ、と猪口に酒を注がせたものの、何と言ったものか、樊瑞は次の言葉を探し倦む。
「あ、……その、
「……わかってます、あなたの仰りたいことは。ただただ集まったのでもないお金を、自分たちの道楽にばっかり注ぎ込みたくない、そういうことでしょう」
「あ、ああ」
一瞬、きょとん、としてから、樊瑞は一言ずつ選ぶように、静かに話す。
「孔明は、余った金は使えという。それならばもっと、BF団に、ビッグファイア様に利となる形を取るのが本当だと、わしはそう思う。……これは、間違っておるだろうか」
「いいえ」
にこ、と笑顔で、は小さく首を振った。
「あなたらしくって、とっても素敵な考え方」
微笑まれた樊瑞は、こほ、と咳払いをして、視線を天井へ泳がせる。思い出したように箸を引っ掴んで、いやあこの刺身も旨い、とやけに大きな声で褒めながら皿をつつきはじめる。
くすくすっと笑って、は、樊瑞の肩に手のひらをすべらせる。耳元に唇を寄せ、そっと、囁いた。

それでこそ、私の惚れたお方だわ、と。