ケンカの原因は、いつだって私の身勝手だった。
ふたつ買ったプリンを両方食べたこと、コンサートをすっぽかして野球観戦に行ったこと、浮気したこと、愛して、厭きて、棄てたこと。
「何にも変わってないわねえ」
素直に謝罪を口にすればよいものを、私はそれらの場面の悉くで、煙に巻くような物言いばかりした。それが余計、彼の怒りに油を注ぐと知っていて。
、またてめえか!」
顔を真っ赤にして吠えるバレルは、空っぽのプリンの容器を掴み、私を睨み付ける。懐かしい光景につい口元を弛ませると、何が可笑しい、とまた吠える。
「プリンごときで熱くなるなんて、あなたいったいいくつなの」
「てめえはまたそういう……つか他人のモンを勝手に食うとか、人としてダメだろうが!」
「世界征服を目論む秘密結社の幹部に、まさか人の道を教わるとは思わなかったわ」
遠い記憶の若い日に、私は彼に恋をした。ふたりでいれば世界だって手に入る気がしていたけれど、あるとき急に要らなくなった。かなり一方的な別れの後、思い出すことすらなかったというのに、どういう因果か五年後にヘッドハンティングされた職場で再会した。
バレルは私に問い掛けた、俺を愛していたのかと。私はしかと頷いた。そういう時間はたしかに在った。バレルはさらに問い掛けた、俺の何を厭うのかと。私はこれには頭を振った。彼を嫌った理由は、無い。
血の気が多くて真っ直ぐで、いつでも自分の人生の中心を生きている。
その輝きに魅了され、彼を愛したつもりになって、その眩さに気圧されて、呑み込まれるよりはやく、道を違えただけだった。
彼には彼の、私には私の世界が在って、それが重ならないのなら、肩を並べる意味などないと、当時の私は思ったのだろう、けれど。
「──……は」
短く、鼻で息をつく音がした。振り上げていた拳を落とし、バレルは力なく壁に背を預ける。
「もう、いいよ」
お前はそういうヤツだよな。
泣き声にも、笑い声にも似た声で、バレルは私を指差した。
それは、初めて見る彼の姿で、私は。

バレルをたまらなくいとおしく想う自分に、気付かないフリができなくて、困った。