ダリを見に行こうと言い出したのは、だった。
シュルレアリスムなんざ胸糞悪いとバレルはあからさまに顔を顰めてみせたが、嫌なら一人で行くわと素っ気無い言い方をされると、どことなく寂しいような心持ちになって、結局、仕方ねえなついてってやるよ、とぶっきらぼうに上着へ手を伸ばすのだった。
折りしも街は秋雨に抱かれる季節だった。歩道の吹き溜まりには縒れた赤や黄や茶の落葉たちが、びしょびしょになって澱んでいる。身を切る風が鼻先に痛いが、自然と近づくとの距離が新鮮で、これはこれでまあいいか、などと口角が上がったりする。
ダリは最悪だった。何一つ美しいとも感動を覚えるとも共感できるとも思えなかったし、何より、最後から二枚目の絵の前で、が別れ話を切り出したのだ。
他の男と寝たわ、あんたはそういうの許せないでしょう、だから別れましょう。
理解に苦しむ言い草だった。何で俺の所為みたいになってんだ。じゃあ俺が許せばおまえは別れずにいられるのか? その男と一緒になりたいんだってはっきり言えよ!
薄暗いフロアに無遠慮な怒号がこだました。は鬱陶しそうに眉を寄せて、何も言わずにバレルに背を向けた。
淡々とおどる白い光が、この胸糞悪い世界からの脱却を誘う。その光に吸い込まれ、はふつりとバレルの視界から消えた。立ち尽くすバレルと光るアーチとの間には、ダリの絵が一枚、残されている。
我が子を抱きながら、胸の内に薔薇を飼う黒衣の聖母。
ああ、美しいな、とバレルはぼやいた。