土の匂いを高く離れた塔が一本、夜空へ目掛けて長く腕を伸ばしている。その頂に腰を据えた男が一人。
男はもうずっと、ただ月を眺めていた。
眺めながら、己の内に巣食う泥のような侘しさの意味を考えていた。
満たされなかった子供時代、この手から母を奪った養家への復讐を誓い、養父を裏切り、義兄を欺き、金を蓄え権威を着重ね、弱きを虐げ我が身を称賛する者たちを作り上げてきた。私のための、私だけの理想郷が、ここにやっと完成したというのに、しかし、達成感など欠片も得られない。ユートピアを見下ろす満足よりも、あの月を恋う焦燥のほうがはるかに大きかった。
強大な力と莫大な富とを手中に収めた絶対君主になれば、この胸の洞は自然と埋まるのだと思っていた、それなのに、なぜ。
たったひとつ、本当はただそれだけが欲しかった、そのひとつだけ、手に入らない。
「──ジェーン」
私はただ、愛されたかっただけなのに。